2020年7月27日
内閣総理大臣 安倍晋三 様
内閣官房長官 菅義偉 様
外務大臣 茂木敏充 様
産業遺産情報センター長 加藤康子様
産業遺産情報センターの改善に関する要請書
強制動員真相究明ネットワーク
共同代表 庵逧由香 飛田雄一
わたしたちは、2019 年 11 月 1 日付で「『明治日本の産業革命遺産』の産業労働に関する再調査を求める要請書」を内閣官房の「産業遺産の世界遺産登録推進室」に提出しました。
「明治日本の産業革命遺産」についてユネスコやその諮問機関イコモスは、「歴史全体」の説明がなされることを求め、さらにユネスコは日本政府に「関係者との対話の継続」(第 42 回世界遺産委員会)を促しました。しかし、日本政府は産業労働に関する調査を一般財団法人産業遺産国民会議に委託し、その報告書には強制労働の存在を否定するような内容が記されました。
わたしたちはそのような動きのなかで、「明治日本の産業革命遺産」の産業労働に関する調査を、政府自身、あるいは大学などの信頼できる研究機関に委託し、再調査するように求めたのです。その要請に対し文書回答を求めましたが、「産業遺産の世界遺産登録推進室」は「産業遺産国民会議の調査は十分な内容であり再調査はしない」と電話で回答しました。
そして日本政府は「明治日本の産業革命遺産」に関連する産業遺産情報センターの運営と展示を一般財団法人産業遺産国民会議に委託し、本年3月末に東京に開設しました。その展示内容は、端島炭鉱を事例に戦時の強制労働を否定するものとなりました。わたしたちは、このような戦時の強制労働を否定する展示に強く抗議し、その改善を求めます。
「明治日本の産業革命世界遺産」に登録された八幡製鉄所、長崎造船所、高島・端島炭鉱、三池炭鉱、釜石鉱山などには、戦時に朝鮮人、中国人、連合軍捕虜などが動員され、労働を強制されました。たとえば、八幡製鉄所には朝鮮人約4000人、連合軍捕虜約1350人、八幡港運には中国人が約200人連行されました。高島炭鉱(高島・端島)には朝鮮人が約4000人、中国人が約400人連行されました。三池炭鉱には朝鮮人約9200人、中国人約2500人、連合軍捕虜約1900人が連行されています。長崎造船所にも朝鮮人約6000人、連合軍捕虜500人が連行されました。それらの現場では暴力を含む労務管理がなされ、労働が強制されました。それぞれの現場へと強制動員された人々の証言があります。裁判では強制労働が認定された場所もあります。追悼碑建設に企業側が出資した場所もあります。
このような否定できない戦時の強制労働の事実により、2015年7月5日、日本政府は、ユネスコの世界遺産委員会において、次のように発言したのです、「日本政府は,技術的・専門的見地から導き出されたイコモス勧告を尊重する。特に,「説明戦略」の策定に際しては,『各サイトの歴史全体について理解できる戦略とすること』との勧告に対し,真摯に対応する。より具体的には,日本は,1940 年代にいくつかのサイトにおいて,その意思に反して連れて来られ,厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと,また,第二次世界大戦中に日本政府としても徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる所存である。日本はインフォメーションセンターの設置など,犠牲者を記憶にとどめるために適切な措置を説明戦略に盛り込む所存である。」(外務省訳)。
このように 「インフォメーションセンターの設置」は、「意思に反して連れて来られ,厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等」の「犠牲者を記憶にとどめるために適切な措置」として提示されたのです。しかし、この3月に開設され、6月に一般公開された産業遺産情報センターはそのような施設になっていません。
同センターの運営は一般財団法人産業遺産国民会議に委託され、センター長は同会議の専務理事の加藤康子氏です。この会議の歴史認識は端島を例に戦時の強制労働を否定するというものであり、そのような認識が展示に色濃く反映されています。同センターでは、端島炭鉱では民族差別も強制労働もなかったという展示がなされているのです。ガイドには、「(韓国の宣伝は)いい加減」「ウソ」などと見学者に語る者もいます。同センターは戦時の強制労働の歴史を否定する場になっています。また、センターへの見学者の個人情報や訪問時の対話が、センター長によって一方的に雑誌に公開されています(「Hanada」9月号)。これは公的機関による見学者への人権の侵害です。
このような状況をふまえ、わたしたちは、以下を要請します。ご検討の上、8月15日までに文書で回答することを求めます。また、この問題について内閣官房担当者との対話の場を設定されることを求めます。
1. 日本政府はユネスコ世界遺産登録時の発言をふまえ、各地での強制労働の事実を認めること。
2. 端島(軍艦島)だけでなく、戦時に強制労働があった現場の被害者の証言・記録などを収集し、「全体の歴史」を展示すること。
3. ユネスコ第 42 回世界遺産委員会の勧告に基づき、韓国政府や市民団体など「関係者との対話」の場を持つこと。さらに日本史や朝鮮史を研究する学会の関係者からも意見を聴収すること。
4. 民族差別や強制労働の存在を否定する展示やガイド案内については見直すこと。展示内容の改善にあたり、産業遺産国民会議への事業委託を中止すること。
以上
連絡先 兵庫県神戸市灘区山田町 3 丁目 1-1(公財)神戸学生青年センター気付
強制動員真相究明ネットワーク(担当 事務局次長 小林久公)
TEL 090-2070-XXXX FAX 011-596-XXXX e-mail q-ko○sea.plala.or.jp
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