■寄稿(11.30集会に向けていただいたものです)

日韓の棘を抜くために

髙村 薫

 韓国が尹錫悦政権に代わって以降、日本との関係改善を急ぐなかで元徴用工問題にも動きが見られるようになり、11月13日に行われた3年ぶりの日韓首脳会談では、早期の解決を目指すことで両首脳が一致したことが伝えられました。

 

 しかし双方とも、具体的な一歩を踏み出すのが難しいのは相変わらずです。韓国は、賠償に応じない日本企業の韓国内資産の現金化を避けるために、韓国の財団が賠償金を肩代わりする案で調整を進める一方、原告の元徴用工らの意向に沿って、被告企業による謝罪と財団への寄付を日本側に求めています。片や日本は、元徴用工らに対する戦後賠償問題は1965年の日韓請求権協定で「完全かつ最終的に解決された」との立場を変えておらず、いまも「ボールは韓国側にある」の一点張りで、賠償責任を認めることになる日本企業の謝罪や財団への寄付は論外ということになります。

 

 双方とも、国内の政権支持率が低迷しているため、弱腰批判を恐れて譲歩は難しいとされていることから、少なくとも政治的には身動きの取れない状況がしばらく続くのではないかと思われます。現に、元徴用工や慰安婦の問題が日韓の間に刺さった棘になってきたのは、双方がこれを政治化してきたからです。韓国では時々の政権が、被害者に寄り添うと言いつつ反日や政権基盤の強化に利用し、自民党長期政権下の日本では逆に、戦前の歴史に向き合うことが政治レベルでも国民レベルでも徹底的に避けられてきました。そんななか、日韓請求権協定は都合の悪い過去にふたをする印籠となりましたが、それでも個人請求権は消えていないことを日本政府も国会答弁で認めてきたのです。

 

 そして、戦時中に強制連行された中国人元労働者が西松建設を提訴し、2007年に敗訴が確定した裁判で、個人請求権を裁判では行使できないという解釈を最高裁が示して、日本の法廷での外国人戦争被害者の救済の道を閉ざしたのですが、このとき最高裁は「個別具体的な請求権について、債務者側の自発的な対応を妨げない」として、関係者が訴訟以外の方法で被害の救済に向けた努力をする道を残しました。その結果、09年と10年に西松建設は歴史的責任を認めて元労働者側と和解し、解決金が支払われています。

 

 韓国の元徴用工には中国人元労働者と違って賃金が支払われていたことから、両者を同等にみるのは必ずしも正確ではないにしても、一部の元徴用工がきわめて劣悪な労働環境に置かれていたことは歴史の事実です。また、足を踏まれた者が、踏んだ者へ謝罪を求めるのは道理というものであり、足を踏んだ側に足を踏んだこと自体を言い逃れるすべはありません。

 

 謝罪と救済がかくも政治化してしまった状況から抜け出すには、「債務者側の自発的な対応」しか道はありません。立場上、日本政府が賠償責任を認めることができないのであれば、被告企業が動くほかありませんが、仮に被告企業の謝罪と解決金の支払いで元徴用工問題が解決した場合、日韓関係が劇的に改善されることを考えれば、日本政府は被告企業に対して「自発的な対応」を取るよう積極的に働きかけるぐらいの労は取ってもいいはずです。

 

 尹錫悦政権が日本との関係改善に前向きないま、日本にとっても一歩を踏み出す好機です。そして私たち日本人は、かつて元徴用工や慰安婦の足を踏んだことをあらためて肝に銘じる好機でもあります。

 

 元徴用工問題が、解決に向けて少しでも前進しますように。