5.24集会報告「韓国大法院判決の意義と強制動員問題解決の道」

強制動員問題解決と過去清算のための共同行動事務局

矢野秀喜


 5月24日、この日は、戦時中に日本製鉄、三菱重工に強制動員された被害者が起こした訴訟で、韓国大法院が原告の請求を棄却した一審、二審判決を破棄、差戻す判決を出してからちょうど10年に当たる日でした。同日、この判決を記念して、強制動員問題解決と過去清算のための共同行動は、衆議院第二議員会館で院内集会「韓国大法院判決の意義と強制動員問題解決の道」を開催しました。

 

 この院内集会には、近藤昭一衆議院議員、笠井亮衆議院議員、お二人の議員が出席され、それぞれ挨拶をされました。

 

国会議員のご挨拶

 近藤議員は、「韓国で政権が代わり、『日韓関係は良くなる』と言われている。しかし、懸案を解決するのではなく“横に置いて”関係改善を図ったとしてもいずれ綻びが出てくる。過去、歴史の事実に向き合って乗りこえていくことが必要」と挨拶されました。

 また、大統領就任式に出席された笠井議員は以下のように述べられました-「就任式の後、日韓議連と尹大統領は会談を持った。そこで尹大統領は、未来志向で、1998年の日韓パートナーシップ宣言を発展させていく方向で両国の関係を再構築していくことが必要と言われた。国会議長とも会談をしたが、その中でも、過去を直視しながら前に向かうことを確認しあった。(関係改善に向けて)本気度が試され、決断が求められている。両国の議会人の役割は大きいと感じている」

 

集会基調

 お二人からご挨拶をいただいた後、主催者から基調を提起しました。基調では、植民地支配について何も言及せず、その被害者に一言の謝罪もなかった日韓基本条約・請求権協定で、強制動員問題が解決済みとは言えないことを確認。いま世界で「脱植民地主義」の動きが進行する中で(大法院判決もその歴史的文脈の中に位置づけられる)、日本も被害者が尊厳を回復、納得する解決を追求し、真の和解を図ることが問われている、と提起しました(詳細は別掲)。

 

太田修さん・李泳采さんの報告

 その後、同志社大学の太田修さん、恵泉女学園大学の李泳采さんが報告されました。

太田さんは、「『解決済みか』否かではなく、『過去の克服』 はなされたかという問いとして、思考の境界を請求権協定から『過去の克服』へとずらす」必要性があると提起。「『過去の克服』とは単なる『歴史認識』の問題ではなく、『被害者』の主体性回復を目指すものであり、未来を目指すものだ」とその意義を強調されました。「二度と植民地支配・戦争の暴力を繰り返さない、相互信頼に基づき東北アジアの安定と平和的な友好関係を築く、それこそが『過去の克服』と言える」と規定されました。

 李泳采さんは、韓国の尹錫悦政権の対外政策を解説。「尹政権は米国に追従し、韓米同盟をグローバル同盟へと強化しようとしている。韓日関係については、米国の圧力によって歴史問題に対して妥協的な姿勢を見せるだろうが、当事者不在の中での解決は難しいだろう」と指摘、「市民の力で戦後補償問題を解決し、『人間の安全保障』をつくり上げていこう」と提起されました。

 

運動の現場から

運動の現場からは、市場淳子さん(韓国の原爆被害者を救援する市民の会)、李國彦さん(日帝強制動員市民会)、中田光信さん(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会)が、大法院判決を受けて、どう運動を発展させてきたかを報告しました。

 市場さんは、日本政府・三菱重工を被告として元徴用工被爆者が日本、韓国で起こした裁判の一覧を示され、「被爆者」としての請求は認めつつ、「元徴用工」(=強制動員被害者)としての訴えは棄却した日本の司法判断の理不尽を明らかにするとともに、2012年、2018年の大法院判決によって追加訴訟が広がっている現状を報告されました。

 李國彦さんは、金大中-盧武鉉-李明博-朴槿恵-文在寅と5代にわたる政権下で、強制動員被害者の裁判、闘いがどう発展し、韓国内で過去清算の取り組みが積み重ねられてきたかを概括されました。その上で、韓国内で確定した訴訟は4件、なお66件の訴訟が継続し、1000名を超える原告(被害者、遺族)がたたかい続けていることを報告されました。

 最後に中田さんは、日韓をまたいでたたかわれた訴訟の経過を振り返りつつ、韓国大法院が最終的に下した判決は、「戦争や差別・貧困を生み出す原因の根底にある植民地主義と差別排外主義の克服の道筋を示したダーバン宣言に代表される国際社会の流れに沿う」ものであり、ヘイトクライムが拡大する日本社会の中にその判決の意義を定着させることには大きな意義があると強調しました。

上記とは別に、集会の内容を基調報告としてまとめましたので、ぜひご覧ください。

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5.24院内集会「韓国大法院判決の意義と強制動員問題解決の道」基調報告
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