菅内閣の強制連行・強制労働に関する4・27国会答弁の撤回を求める声明
-朝鮮人強制連行・強制労働の歴史を歪曲・否定することはできない!-
2021年5月24日
強制動員問題解決と過去清算のための共同行動
第204回国会で、2021年4月16日に馬場伸幸衆議院議員が「『強制連行』『強制労働』という表現に関する質問主意書」を出した。それに対して、4月27日、菅内閣は閣議決定のうえ、「答弁書」を出した。
馬場議員の質問主意書は以下の3点を尋ねるものだった。
質問①-朝鮮半島から日本に来た労働者には、募集、官斡旋、徴用など様々な経緯で来た人がいるので、一括りに「強制連行」と表現するのは適切ではないのではないか?
質問②-国民徴用令で来た人を「強制連行」というのはおかしいので、「徴用」と言うべきではないか?
質問③-戦時中に動員されて日本に来た朝鮮人労働者は、強制労働させられたのか?
この質問に対し、政府はつぎのように答弁した。
質問①に対する答弁-朝鮮半島から内地に移入した人々の移入の経緯は様々であり、一括して「強制連行された」というのは適切ではない。
質問②に対する答弁-国民徴用令に基づいて徴用された人びとについては、徴用という。
質問③に対する答弁-強制労働に関する条約には該当しないので、強制労働と言うのは適切ではない。
この政府答弁は朝鮮人強制連行・強制労働の歴史を歪曲・否定するものであり、誤りである。
第1に、これまで政府は、戦時下の「労務動員計画」に基づく朝鮮人労務動員について、「募集、官あっせん、徴用など、それぞれ形式は異なっていても、すべて国家の動員計画により強制的に動員した点では相違なかった」(参議院予算委員会、1997年3月12日)と述べていた。今回の答弁は何の根拠も示さずに、これまでの学会の成果に依拠しての政府の認識を変更している。それは政府の動員計画によって朝鮮人の強制的な連行・労働がなされたという歴史を否定するものである。
第2に、国民徴用令に基づく労働は、強制労働以外の何ものでもない。「徴用」とは「戦時などの非常時に、国家が国民を強制的に動員して、一定の仕事に就かせること」である(「デジタル大辞泉」、小学館刊)。それを「国民徴用令に基づいて徴用された人びとについては、徴用という」などと言うのは、徴用が強制労働であることを隠蔽する行為である。
第3に、国際労働機関(ILO)条約勧告適用専門家委員会は、1999年3月の報告書で「本委員会はこのような悲惨な条件での、日本の民間企業のための大規模な労働者徴用は、この強制労働条約違反であったと考える」と戦時の朝鮮人動員を強制労働と認定している。政府の答弁はこのILOによる認定に反するものである。
朝鮮人強制動員の歴史の否定をねらう者たちは、今回の質問主意書と政府答弁書により、朝鮮人労務動員が「強制連行」でも「強制労働」でもなかったと宣伝したいのだろう。また、歴史教科書から朝鮮人強制動員の記述を消すことを狙っているのであろう。しかし、歴史の事実を歪曲・否定することはできない。歴史教科書から朝鮮人強制動員の記述を削除するのではなく、侵略と植民地支配の歴史を正確に記し、次世代に語り伝えるべきである。そして、重大な人権侵害を受けた強制動員被害者を直ちに救済し、その権利の回復を図るべきである。
朝鮮人強制動員の歴史を歪曲・否定する政府答弁は誤りである。われわれは、この答弁の撤回を求める。
(参考)
質問主意書https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a204098.htm
答弁書https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b204098.htm
菅内閣の強制連行・強制労働に関する4・27国会答弁の撤回を求める声明
-朝鮮人強制連行・強制労働の歴史を歪曲・否定することはできない!-
解 説
1. 戦時の労務動員計画に基づく募集、官斡旋、徴用による動員は強制連行である 〔答弁①批判〕
日本政府は中国で全面侵略戦争を起こすと、「総力戦」態勢の構築をねらって国家総動員法を制定した。1939年以降、「労務動員計画」を閣議決定し、朝鮮半島から多数の労働者を強制連行し、強制労働させた。このことは歴史学の常識であり、各種の歴史辞典にも明記されている。それゆえ、政府は過去、国会において自民党議員から質問が出された際に、次のように答弁している。
★参議院予算委員会、1997(平成9)年3月12日
○政府委員(辻村哲夫君)
…一般的に強制連行は国家的な動員計画のもとで人々の労務動員が行われたわけでございまして、募集という段階におきましても、これは決してまさに任意の応募ということではなく、国家の動員計画のもとにおいての動員ということで自由意思ではなかったという評価が学説等におきましては一般的に行われているわけでございます。
そのような学説状況を踏まえまして、教科書検定審議会におきましては、この強制連行というもとにおきましても、この募集段階の写真につきましてもこれを許容したという経緯でございます。
○政府委員(辻村哲夫君)
…強制連行の中には、先ほど申しましたように、募集の段階も含めましてこれを評価するというのが学界に広く行き渡っているところでございます。
例えば、ここに国史大辞典を持っておりますが、募集、官あっせん、徴用など、それぞれ形式は異なっていても、すべて国家の動員計画により強制的に動員した点では相違なかったというような、歴史辞典等にも載せられているところでございまして、私どもはこうした学界の動向を踏まえた検定を行っているということでございます。
また、実際に中学、高校の歴史教科書においても、戦時中に日本が朝鮮人、中国人を強制連行し、強制労働させた事実が記述され、それは文部省の検定を通っている。例えば、高校の日本史教科書では、以下のように記述されている。
★『高校日本史A』新訂版 実教出版 (2016年3月18日検定済、2019年1月25日発行)
「第5章 15年戦争と日本・アジア」の「第6節 アジア太平洋戦争(太平洋戦争)」での「大東亜共栄圏の実態」という項での記述(125頁)。
朝鮮・台湾では、日中戦争開戦後から皇民化政策を実施した。神社参拝や日本語の使用を強制し、日本軍の兵力不足を補うために志願兵制度をつくり、さらに徴兵制を実施した。とくに朝鮮では、日本式の氏を創り名前を改める創氏改名、天皇への忠誠を誓う皇国臣民の誓詞の斉唱など、朝鮮人の民族性を否定する政策をおこなった。経済面では国家総動員法などを適用し軍需生産をおこない、国民徴用令を適用して、多くの人々を工場や炭鉱などへ強制的に連行した。」(⑥)
「⑥ 労働力不足を補うため、1939年からは集団募集で、42年からは官斡旋で、44年からは国民徴用令によって、約80万人の朝鮮人を日本内地や樺太・アジア・太平洋地域などに強制連行した。また同期間中に415万人の朝鮮人を朝鮮内の鉱山や工場に、11万人を軍隊内での労務要員に強制連行した。さらに約4万人の中国人も日本などに強制連行した。過酷な労働のなかで多くの死者を出し、秋田県では中国人の蜂起もおこり、約420人の死者を出した(花岡事件)。
このように政府は過去の国会答弁で、「一般的に強制連行は国家的な動員計画のもとで人々の労務動員が行われたわけでございまして、募集という段階におきましても、これは決してまさに任意の応募ということではなく、国家の動員計画のもとにおいての動員ということで自由意思ではなかった」という評価・学説等を肯定し、認めているのである。
そして、こうした学説や学会の動向を踏まえて文部科学省は教科書検定を実施してきた。その結果、上記のように記述した実教出版の歴史教科書も検定を通っているのである。
政府はこのような国会答弁や歴史教科書の記述を否定することはできなかった。それゆえ、答弁書では、政府は「強制連行はなかった」と書くことはできなかったのである。日本に渡って来た「経緯は様々で」あったから、それを一括りに「強制連行」というのは適切ではないと曖昧な表現を用いたのである。
今、強制動員で問題になっているのは、日本の裁判所も強制労働の事実を認定し、韓国大法院が日本の強制動員企業の不法行為責任を認定し、その被害者に対して企業に賠償せよという判決が出ていることである。強制動員被害者の人権回復をいかに図るのかが問われているのである。
馬場議員は、一括りに強制連行というのは適切ではないという政府答弁を引き出して「満足」しているのかも知れない。しかし、それでは強制動員被害者の尊厳は回復されない。日本の国会議員としての責任を果たしているとは言えない。
なお、馬場議員は、この「質問主意書」と同日に、「『従軍慰安婦』等の表現に関する質問主意書」を提出した。これに対しても政府は「答弁書」を出した。その「答弁書」には、「『従軍慰安婦』という用語を用いることは誤解を招く」、「単に『慰安婦』という用語を用いることが適切である」と書かれていた。すると「産経新聞」(4.28付)は、「政府が閣議決定の形で『従軍慰安婦』の表現を不適切とする姿勢を明確に打ち出したことで、近年は教科書検定のたびに記述の妥当性が議論となっていた『従軍慰安婦』問題に一定の決着がみられた」などと報道した。
答弁をふまえ、検定済教科書の「慰安婦」記述を「訂正」させる動きも現われている。「強制連行」「強制労働」という表現に関する質問は、「慰安婦」問題と同じ趣旨で出され、教科書記述への介入を狙っているとみられる。だが、歴史教科書から朝鮮人強制動員の記述を消すことは歴史の否定であり、許されないことである。
2.国民徴用令による労働は強制労働である 〔答弁②批判〕
国家総動員法、国民徴用令に基づいて行われた動員=「徴用」は、日本人、朝鮮人に等しく実施されたのだから、強制動員ではない、強制労働とは言わない、などという論理は通用しない。
まず、辞書を見てみよう。「精選版 日本国語大辞典」(小学館)では、「徴用」について、次のように説明している。
① 物品を強制的にとりたてて使用すること。徴発して用いること。② 戦時などに際し、国の公権力で国民を強制的に動員し、一定の業務に従事させること。③ 召し出して、官職につけること。
また、「デジタル大辞泉」(小学館)でも、以下のように説明している。
戦時などの非常時に、国家が国民を強制的に動員して、一定の仕事に就かせること。また、物品を強制的に取り立てること。「兵器工場に徴用される」「車両を徴用する」。
どの辞書でも、人の「徴用」については、公権力(ないし国家)が国民を強制的に動員し、一定の業務に就かせることと説明している。「徴用」とは、強制動員、強制労働を意味する用語なのである。
続いて、「徴用」の根拠法である国家総動員法の条文をみよう。「徴用」について規定しているのは第4条である。
第四條 政府ハ戰時ニ際シ國家總動員上必要アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ帝國臣民ヲ徵用シテ總動員業務ニ從事セシムルコトヲ得但シ兵役法ノ適用ヲ妨ゲズ
この「徴用」を拒んだときはどうなるか。それについては第36条に規定がある。
第三十六條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ一年以下ノ懲役又ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
一 第四條ノ規定ニ依ル徵用ニ應ゼズ又ハ同條ノ規定ニ依ル業務ニ從事セザル者
「徴用」を拒んだときには、1年以下の懲役または千円以下の罰金が科されるのである。つまり、懲役ないし罰金という「強制」、圧力をもって動員し、労務に従事させるというのが「徴用」なのである。
さらに、国際労働機関(ILO)の「強制労働条約」(1930年、日本は1932年批准)は、「強制労働」について次のように規定している。
第二条
一 本条約ニ於テ「強制労働」ト称スルハ或者ガ処罰ノ脅威ノ下ニ強要セラレ且右ノ者ガ自ラ任意ニ申出デタルニ非ザル一切ノ労務ヲ謂フ
この規定に照らせば、日本が戦時下で行った「徴用」は、まさに強制労働そのものである。
このように、徴用とは強制動員による強制労働であり、馬場議員の「国民徴用令で来た人を『強制連行』というのはおかしい」という言い方は通用しない。政府による、国民徴用令に基づいて徴用された人は徴用というとする答弁は、徴用のもつ本質(=強制労働)を隠蔽する表現である。
3.国際労働機関(ILO)は、戦時の朝鮮人動員・労働を強制労働条約違反と認定している 〔答弁③批判〕
政府は、「『募集』、『官斡旋』及び『徴用』による労務については、いずれも同条約上の『強制労働』には該当しない」と答弁しているが、これは偽りである。
なぜならば、国際労働機関(ILO)の条約勧告適用専門家委員会は、1999年3月の「年次報告書」で、戦時中に日本が行った「民間企業のための大規模な労働者徴用は、強制労働条約違反であった」と認定しているからである。
ILOに対し、1997年に全造船関東地協労働組合、1998年に東京地方労働組合評議会が、日本が戦時中に行った朝鮮人・中国人の強制連行・強制労働を、強制労働条約違反と認定し、日本政府に対して被害者救済を勧告するよう、申し立てを行った。これに対し、ILO条約勧告適用専門家委員会は1999年3月の「年次報告書」で、強制労働条約違反を認定したのである。「報告書」は次のように述べている。
12 本委員会は、提出された情報と日本政府の回答をノートした。本委員会は、日本政府が『外務省報告書』の全般的内容に反論せず、その代わりにそれぞれの政府に対して支払いをしてきたことを指摘していることをノートする。本委員会はこのような悲惨な条件での、日本の民間企業のための大規模な労働者徴用は、この強制労働条約違反であったと考える。
本委員会は、請求が現在裁判所に係属しているにもかかわらず、被害者の個人賠償のためになんら措置が講じられていないことをノートする。
本委員会は政府から政府への支払いが、被害者への適切な救済として十分であるとは考えない。本委員会は『慰安婦』の事件と同様、本委員会が救済を命じる権限を有しないことを想起し、日本政府が自らの行為について責任を受け入れ、被害者の期待に見合った措置を講ずるであろうことを確信する。本委員会は、日本政府に、訴訟の進行状況と講じられた措置についての情報を提供するよう要請する。
政府は、強制労働に該当しない理由として、「『緊急ノ場合即チ戦争ノ場合・・・ニ於テ強要セラルル労務』を包含しないものとされている」ことをあげている。確かに、強制労働条約は、日本政府が言うように戦時の「適用除外」を認めている。しかし、それには厳格な条件が付与されている。同条約の、関連条文を見てみる。
第一条
2 右完全ナル廃止ノ目的ヲ以テ強制労働ハ経過期間中公ノ目的ノ為ニノミ且例外ノ措置トシテ使用セラルコトヲ得尤モ以下ニ定メラルル条件及保障ニ従フモノトス
第二条
1 本条約ニ於テ「強制労働」ト称スルハ或者ガ処罰ノ脅威ノ下ニ強要セラレ且右ノ者ガ自ラ任意ニ申出デタルニ非ザル一切ノ労務ヲ謂フ
2 尤モ本条約ニ於テ「強制労働」ト称スルハ左記ヲ包含セザルベシ
(d) 緊急ノ場合即チ戦争ノ場合又ハ火災、洪水、飢饉、地震、猛烈ナル流行病若ハ家畜流行病、獣類、虫類若ハ植物ノ害物ノ侵入ノ如キ災厄ノ若ハ其ノ虞アル場合及一般ニ住民ノ全部又ハ一部ノ生存又ハ幸福ヲ危殆ナラシムル一切ノ事情ニ於テ強要セラルル労務 ((a)(b)(c)(e)省略)
上記のように、「緊急の場合即ち戦争の場合」においては、例外として「強制労働」から外し、「包含」しないと規定している。しかし、戦時であれば強制労働は認められるのかと言えば、そうではない。ILOは安易に「適用除外」を認めない立場をとっているのである。
日本政府は、全造船関東地協、東京地評の申し立てに対し、戦時中の朝鮮人の労務動員について、「戦時適用除外」(第2条第2項(d)に該当)を主張したのかも知れない。しかし、1999年3月に専門家委員会が公表した「意見」には、日本政府は、①植民地支配について繰り返し「遺憾の意」を表明してきた、②1965年の条約で韓国に5億ドルの経済援助をしたことによって「完全かつ最終的に解決したものとして合意した」の2点をもって、「反論」したとしか、記述されていない。専門家委員会報告だけを読むならば、日本政府はILOに対して公然とは戦時の「適用除外」を主張できなかったのではないかと推測することもできる。
しかし、1997年の「報告書」は、「慰安婦」問題をめぐり、専門家委員会内でさまざまな議論がなされたことを明らかにしている。留意すべきは、専門家委員会の「報告」が以下のように述べていることである。
条約違反の存否に関わる問題に関しては、委員会は又、1996年8月の第48会期国連差別防止少数者保護小委員会で、戦時の組織的強姦、性奴隷制、及び奴隷類似慣行に関してなされた論議に留意する。その論議に際して、(強制労働)条約第2条中の適用除外規定との関連で、戦時『慰安婦』問題に関して条約の適用があるか否かに関し、疑問が提起された。
これに関して、委員会は、1979年に委員会が強制労働の廃止のための一般的調査(General Survey of 1979 on the abolition of forced labour)のパラグラフ36に記載した、条約第2条第2項(d)により条約の適用が除外される「緊急の場合即ち戦争の場合、又は火災、洪水、飢饉、地震、猛烈なる流行病、獣類、虫類若は植物の害物の侵入の如き災厄の若はその虞ある場合及び一般に住民の全体又は一部の生存又は幸福を危殆ならしむる一切の事情において強要せらるる労務」に関する説明を引用する。委員会は、緊急概念は、条約が例示的に列挙するように、突然の、予見しがたい偶発的事件であって、即時的な対応措置を必要とするものに関わると指摘してきた。条約に規定された例外の限界に関わるので、労働を強要できる権限は、真に緊急な場合に限らねばならない。さらに強制されるサービスの内容・程度も、それが用いられる目的と共に、その状況により厳密に必要とされる範囲内に制限されねばならない。条約第2条第2項(a)により条約の適用が除外される「強制兵役法に依り強要せらるる労務」の範囲を「純然たる軍事的性質の作業に対して」のみ限定しているのと同様であるが、緊急に関する第2条第2項(d)は、戦争、又は地震の場合でありさえすれば、いかなる強制的サービスをも課すことができるという白紙許可ではないのであって、同条項は、住民に対する切迫した危険に対処するためにどうしても必要なサービスについてしか適用できないのである。
委員会は、本件は、条約第2条第2項(d)及び第2条第2項(a)により認められた適用除外事由に該当しないのであり、したがって、日本による(強制労働)条約違反が存在したものと結論する。
この「報告」を読むと、1995年の報告で専門家委員会が、日本軍「慰安婦」制度を強制労働条約違反と認定したことに対し、日本政府がこれを覆すために反論、反撃に出たことが伺える。しかも、この問題は、国連の「差別防止少数者保護小委員会」とILOをまたいで議論されたのである。
その際に、日本政府が「慰安婦」制度は強制労働条約違反ではないことを「立証」するためにあげた論拠、根拠条文が強制労働条約第2条第2項の(a)(d)であった。つまり、日本政府は、「戦時中だったのであるから」、強制労働には当たらない、と言ったのである。その時、兵士に性的サービスを強制することも第2項(a)=「純然たる軍事的性質の作業に対し強制兵役法により強要せらるる労務」に該当すると言ったことが推測される。また、(d)に当たるとも主張した。
しかし、専門家委員会は、戦争でありさえすればどんな強制労働も「例外」として認められるなどということはない、とその反論を退けたのである。専門家委員会は、「白紙許可ではない」と言い、「適用除外」は「住民に対する切迫した危険に対処するためにどうしても必要なサービスについてしか適用できない」と日本政府の破廉恥な主張を退けた。
このように日本政府は、専門家委員会の中で反論を試みたのだが、ほとんど「一刀両断」で退けられたため、以降は「作戦」を変更した。
それが、①サンフランシスコ平和条約と1965年の請求権協定により、法的には「完全かつ最終的に解決済み」という主張であり、②アジア女性基金等で誠実に対応してきたという「実績」アピールである。しかし、このような主張に対して、専門家委員会は一貫して「(日本政府は)被害者の期待に応えるために必要な措置をとるべき責務を果たし続けるであろう」と言い続けているのである。
日本政府は日本軍「慰安婦」制度で戦時の「適用除外」を主張した。そうであれば、朝鮮人強制連行・強制労働について同様の主張をしたことは、ほぼ間違いないであろう。しかし、これに対しても専門家委員会はそのような主張、反論は認めなかった。その結果として1999年3月の報告に記載された結論に至ったものとみられる。
ところが、今回の馬場議員の質問主意書に対して、政府は「同条約上の『強制労働』には該当しないものと考えており、これらを『強制労働』と表現することは、適切ではないと考えている。」と答弁した。
その際、強制労働条約第2条2項(d)の条文「緊急の場合即ち戦争の場合……に於て強要せらるる労務」を略してあげ、戦時の「適用除外」が認められるかのように述べた。それはILO条約の専門家委員会が「適用除外」には該当せずに強制労働条約違反と認定していることを無視する答弁である。
また、答弁では「該当しないものと考えており」と、自らの「主観的見解」を表明するにとどめている。ILO専門家委員会による強制労働条約違反の判断を知る政府は、「強制労働」に該当しないと断言できなかったのである。姑息な、主権者をあざむく答弁である。
終わりに-政府は強制労働の事実を認め、被害者を救済せよ
ILO条約勧告適用専門家委員会は1999年3月、戦時中に日本政府が行った朝鮮人・中国人強制労働について、「適用除外」とはみなさず、明確に「強制労働条約違反であった」と断定した。そして、日本政府が日韓請求権協定を経て5億ドルの経済援助を行った、それで「解決済み」という主張に対しても、「被害者への適切な救済として十分であるとは考えない」と言い切った。
その上で、ILO専門家委員会は「本委員会が救済を命じる権限を有しない」と断りつつも、「日本政府が自らの行為について責任を受け入れ、被害者の期待に見合った措置を講ずるであろうことを確信する」と意見し、日本政府に自主的、自発的な被害者救済を促したのである。
ところが、日本政府はこの「勧告」を「法的強制力はない」「従う法的義務はない」と言い、無視してきた。そのような無作為の結果、2018年10月30日、韓国大法院は日本企業に対し強制労働被害者に慰謝料を支払うよう命じる判決を出すに至ったのである。
大法院判決は、被害者の訴えに背を向け、ILOの勧告を無視し続けてきた日本政府自らが引き出したものなのである。今こそ日本政府は、戦時中の朝鮮人強制連行・強制労働の事実を認め、被害者を救済すべきである。それと同時に、歴史の事実を歪曲・否定するのではなく、教科書にその事実を記し、過去の過ちを後世に正確に伝えていくべきである。朝鮮人強制動員の歴史を歪曲・否定する4・27政府答弁は撤回すべきである。
連絡先 強制動員問題解決と過去清算のための共同行動
住所 〒230—0062 横浜市鶴見区豊岡町20番地9号 サンコーポ豊岡505号
全造船関東地協労働組合気付
e-mail 181030jk★gmail.com (★は「@」マーク)
URL https://181030.jimdofree.com/
(参考資料)
本「解説」執筆に当たって、以下の資料などを参考とさせていただいた。
・『過去の克服 ILO勧告受け強制労働被害者補償へ』(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク編、2005年1月14日刊)
・ウェブサイト「『徴用工』問題を考えるために 混乱したギロンを片付けたい!」
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