ILO専門家委員会報告に関する声明

 2月9日、ILO(国際労働機関)の「条約および勧告の適用に関する専門家委員会」(以下、専門家委員会)は、2024年年次報告書を公表した。専門家委員会は、第29号強制労働条約(日本批准、1932年)に関して、「技能実習生プログラム」と「戦時性奴隷制と産業強制労働」を取り上げ、「第二次世界大戦中の『慰安婦』と産業強制労働の問題を解決するための具体的な措置が2018年以降、日本政府によってなんら行われていない」と批判。「本件の深刻さと被害が長期にわたっている性質を考慮し、委員会は日本政府に対し、生存する被害者、特に2015年合意を拒否した被害者との和解を達成するためにあらゆる努力を払うこと、また、年を追うごとにその数が減少し続けている戦時産業強制労働および軍事的性奴隷制による高齢の生存被害者の期待に応え、彼ら彼女らが求める解決を達成するために適切な措置を遅滞なく取るよう努めること」を日本政府に求めた。

 

 今回、専門家委員会が改めて、「戦時性奴隷制と産業強制労働」を取り上げたことには重要な意味がある。「1995年以来、第二次世界大戦中の性奴隷制(いわゆる「慰安婦」制度)と産業界における強制労働の問題を調査してきた」(2024年報告)としているように、専門家委員会は「戦時性奴隷制と産業強制労働」について日本政府に対して繰り返し勧告してきた。1996年報告では戦時「慰安婦」について、「かかる行為は条約に違反する性奴隷制と特徴づけられるべきであると認められる」と指摘し、1997年報告では、戦時適用除外との日本政府の主張を「『戦争、又は地震の場合であれさえすれば』いかなる強制的サービスをも課すことができるという白紙許可ではない」と明確に否定した。1999年報告では、戦時産業労働問題を初めて取り上げ、「このような悲惨な条件での、日本の民間企業のための大規模な労働者徴用は、この強制労働条約違反であったと考える」と指摘。その後も「犠牲者の年齢と時間の経過の速さを考慮して・・・日本政府が犠牲者と政府の双方に満足のいく形でこれらの者の請求に応えることができるようになるという希望」(2001年報告)を繰り返し表明し続けた。

 

 しかし、日本政府は専門家委員会の勧告を無視するだけでなく、「強制労働」を否定することに躍起となってきた。2015年7月の「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録に際しては、あえて「forced to work」という用語を用い、「我が国代表の発言における「forced to work」との表現等は、『強制労働』を意味するものではありません」(岸田外相・当時)と、強制労働条約にいう「forced labor」(強制労働)ではないと強弁。2021年4月27日には「『募集』、『官斡旋』及び『徴用』による労務については、いずれも同条約上の『強制労働』には該当しない」との政府見解を閣議決定した。この閣議決定は、群馬の森の「記憶、反省、そして友好」の碑の破壊につながる司法判断にも大きな影響を及ぼした。今回の専門家委員会報告により、こうした日本政府の「強制労働」否定の主張が国際的には全く通用しないものであり、国内的なプロパガンダに過ぎないことが白日の下にさらされたのである。

 

 また、技能実習生問題についても「強制労働に相当し得る技能実習生の労働基本権侵害と虐待的な労働条件が根強く存在すること」を指摘した。2001年ダーバン宣言が「植民地主義が人種主義、人種差別、外国人排斥および関連のある不寛容をもたらし・・・今日の世界各地における社会的経済的不平等を続けさせる要因」と指摘したのと同様に、過去の強制労働が未だに克服されていないことが、現代日本の「強制労働」である、技能実習生問題の「要因」であると厳しく指摘するものである。

 

 被害者は高齢であり、もはや一刻の猶予もない。今度こそ、専門家委員会の勧告に従い、「彼ら彼女らが求める解決を達成するために適切な措置を遅滞なく取るよう努めること」が求められているのである。

 

2024年3月12日

強制動員問題解決と過去清算のための共同行動

https://181030.jimdofree.com/

 

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国際労働基準の適用・2024年

『条約および勧告の適用に関する専門家委員会報告書』

〈強制労働〉

 

【日本】

1930年強制労働条約(第29号)(批准:1932年)

以前のコメント

委員会は、2019 年 9 月 20 日に受領した韓国労働組合総連盟(FKTU)と韓国全国民主労働組合総連盟(KCTU)の共同見解、2021 年 9 月 28 日と 2022 年 9 月 28 日に受領した首都圏移住労働者ユニオン(LUM)の見解、およびこれらの見解に対する日本政府の回答に留意する。また、日本政府の諸報告書において示された日本経済団体連合会(経団連)および日本労働組合総連合会(連合)の見解についても留意する。

条約第1条1項、第2条1項、第25条

 

1.技能実習生プログラム

 委員会は以前、外国人が1年間「実習生」として日本に入国し、さらに2年間「技能実習生」として滞在できる技能実習制度において、強制労働に相当する労働基本権の侵害が確認できたことを指摘した。

 

 委員会は、LUMの見解の中で、日本における技能実習生の数が2021年末時点で276,123人と推計され、パンデミック時に実施された出入国規制の強化により例年より10万人減少していることに注目している。

 

 委員会は、LUMと連合がそれぞれの見解の中で、2021年においても、調査対象とされた技能実習生プログラムに参加する企業の70%において、主に安全基準の不遵守、長時間労働、賃金未払いの結果として、労働法の諸規定違反が依然として見つかっており、この割合が2015年以来ほとんど変わっていないことを強調していることに、注目する。LUMは、2022年には1,974件の安全基準違反が確認され、そのうち検察に送検された割合はわずか0.5%であったと付け加えている。LUMは、法務省の報告書によると、2018年から2021年の間に199人の研修生が死亡しており、そのうちの33パーセントが病気、35パーセントが事故、13パーセントが自死であったことを、強調している。さらに連合は見解の中で、2019年4月から9月までに発生した技能実習生の所在不明・死亡事案のうち、約20%の事案で発生から6カ月以内に実地検査が実施されておらず、事案につながる客観的な資料が散逸している危険性があることを示している。連合は、実地検査の頻度を増やすとともに、違反があった場合には、監理団体の免許停止や実習実施機関の技能実習計画の認定取り消しなど、初期対応を強化することを提言する。

 

 委員会は、日本政府が報告書の中で、技能実習生研修プログラムの実施に関連していくつかの問題が残っていることを認めていることに留意する。日本政府は、技能実習生の適切な労働条件と安全・健康を確保するために、以下のようないくつかの措置が実施されていることを示した:①2022年2月にそれまでの「技能実習プログラム実施要領」を見直して、技能実習プログラムの適正かつ円滑な運営を確保するため、監理団体及び実施団体が講ずべき必要な措置を定め、 ②技能実習生の入国時に、関係法令及び支援サービスに関する情報を記載した「技能実習生手帳」を全技能実習生に配布し、③実習生の母語による相談窓口を設置するとともに、2021年4月からは、暴行・脅迫等特に緊急性の高い事案に対応し、人権侵害事案を迅速に把握するための「技能実習生SOS・緊急相談窓口」を設置するし、④人権侵害が発生した場合の実習地の変更支援、実習生に対する一時的な宿泊施設を提供し適切に保護を行い、⑤2020年3月31日現在587名のスタッフを擁する外国人技能実習機構(OTIT)の人的資源の強化し、⑤2021年3月31日現在14カ国の実習生出身国と協力覚書を締結した。

 

 委員会はさらに、OTITが「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(2016年)に基づき、実習実施機関及び監理団体に対して定期的に立入検査を実施していること、また、死亡事故が発生した際には、死因に関する証拠の保全のために立入検査を実施しているとの日本政府の指摘に注目している。日本政府は、2020年4月から2021年3月までに、OTITによる20,671件の立入検査が実施され、その63.4%において違反が認められたとしており、その主な内容は、劣悪な宿泊施設、報酬の不適切な支払い、届出・報告の不備、帳簿や書類の作成・管理の不備に関するものであった。日本政府は、2021年に労働基準監督署が、労働基準法違反が最初に認められた9,036の事業所に対して監督指導を行い、違反が確認された6,556事業所に対して是正勧告を行い、25件を検察庁に送検したと、付け加えた。さらに日本政府は、2021年には、都道府県労働局、労働基準監督署、OTITが合同で、特に技能実習生プログラムの下での強制労働が疑われる37の実施団体に対して検査・調査を実施し、30件で是正勧告が出されたと、付け加えた。

 

 さらに、委員会は、外国人労働者の受入れ・共生に関する関係閣僚会議の下に、技能実習制度の実施状況を検証し、課題を特定し、外国人労働者の適正な受入れのあり方を検討するため、「技能実習・特定技能制度の在り方に関する有識者会議」を設置することを政府が指示したことに注目する。有識者会議は2023年5月に法務大臣に中間報告書を提出し、現行の技能実習制度の目的と実態に乖離があるとして、現行の技能実習制度を廃止し、新たな制度を創設することを提言した。有識者懇談会は、監理団体やOTITによる指導・監督・支援が現状では不十分な面があると指摘した。この点に関して、日本政府は、現行の技能実習生プログラムを発展的に解消し、今後、諮問委員会のさらなる議論に基づいて新たなプログラムを設立することを検討するとしている。具体的には、以下のような措置が現在検討されている:①研修生は、いくつかの制限を維持しながら、雇用主を変更することができる。②外国人労働者が日本で働き始める前に必要な語学力を習得できるよう支援する。③人権侵害の防止・排除の観点から監理団体の資格要件を厳格化することにより、監理団体の能力レベルを向上させ、受入企業や研修生を支援する;④OTITの運営体制を再編すること。

 

 委員会はこの情報の重要性に留意する。委員会は、日本経団連と連合がその見解の中で、いかなる新しい制度も単なる名称変更に終わらせるのではなく、移民労働者の権利を適切に保護するために現行制度を抜本的に改革すべきと強調していることに注目する。2018年に創設された特定技能労働者ビザ・プログラムに関して、連合は、技能実習生プログラムに関して寄せられたものと同様に、特に賃金、労働時間、ハラスメントに関連する問い合わせをいくつか受けていることを示している。したがって、連合は、労働者への虐待に対する同様の脆弱性を生じさせないために、技能実習生のための新たな制度の確立とともに、特定技能労働者ビザ・プログラムの効果的な見直しを行うことも勧告している。連合によれば、日本政府は移民労働者の受け入れに関する国民的議論などを通じて、多文化的環境も育成すべきである。

 

 委員会は、日本政府による努力に十分留意するが、強制労働に相当し得る技能実習生の労働基本権侵害と虐待的な労働条件が根強く存在することに関して懸念をもって留意する。委員会は、日本政府に対し、技能実習生が適切に保護されることを確保するため、法執行官のための能力開発活動、受入組織に対する効果的なチェック活動、虐待的状況を通報するためのアクセス可能な手段、およびそのような通報に対する迅速な対応など、必要なあらゆる措置を引き続き講じるよう要請する。委員会は、日本政府に対し、技能実習・特定技能制度の在り方に関する有識者会議の最終報告書において、この点に関してなされた勧告、及び日本政府によって実施されたフォローアップ措置に関する情報を提供するよう要請する。委員会はさらに、日本政府に対し、報告された技能実習生の権利侵害の件数と内容、訴追と有罪判決に至ったケースの数、そして、これらの事案を生み出した状況に対する政府の指示に関する情報を引き続き提供するよう要請する。

 

 

2. 戦時性奴隷制と産業強制労働

 委員会は、1995年以来、第二次世界大戦中の性奴隷制(いわゆる「慰安婦」制度)と産業界における強制労働の問題を調査してきたことを想起する。また、FKTUとKCTUが共同見解の中で、2018年10月30日に大韓民国最高裁判所が示した、日本統治時代に強制労働に従事させられた韓国人被害者に対する賠償金の支払いを日本企業2社に命じた判決(事件番号2013 Da 61381)に言及していることに留意する。FKTUとKCTUは、当時、少なくとも80万人の朝鮮人が強制労働と徴用に動員されたと推定されるとして、年を追うごとに死者が増加しその数が減り続けている被害者の権利を尊重し、回復するために、日本政府と関係企業が包括的な措置をとることが緊急に必要であると付言している。委員会は、最高裁判所の判決は、この問題を解決するために日本と大韓民国との間で締結された1965年の協定に明らかに違反しているとの日本政府の声明に留意する。

 

 この点に関して、委員会は、2023年3月、大韓民国政府が、日本統治時代の韓国人強制労働被害者のために、韓国の民間部門からの自発的な拠出金で賄われる第三者弁済制度を提案したことに注目する。日本政府は、発表された措置を公式に歓迎するとしている。

 

 「慰安婦」問題に関して、委員会は、日本政府が、この問題を否定したり矮小化したりする意図はないと、繰り返し述べていることに留意する。また、日本政府は、「慰安婦」問題を含む第二次世界大戦に対する賠償、財産、請求権の問題については、サンフランシスコ平和条約や、韓国との間で締結された1965年および2015年の合意などの二国間文書の下で、誠実に対処してきたと付言している。その中で日本政府は、2007年に解散した「アジア女性基金(AWF)」の設立に協力し、285人の女性に民間からの寄付による償い金を支給したこと、大韓民国が設立した「和解・癒やし財団」に拠出し、2015年合意時に生存していた元「慰安婦」47人のうち35人と、当時死亡していた元「慰安婦」199人のうち64人の遺族に経済的支援を行ったことを指摘している。さらに、2018年、大韓民国は一方的に財団の解散を発表したと付け加えている。日本政府は、2018年以降、日本の裁判所は大韓民国の「慰安婦」や元民間労働者に関連する新たなケースを扱っていないことも指摘している。

 

 複数の戦時被害者が2015年合意に基づく取り決めを拒否したことを想起し、委員会は、第二次世界大戦中の「慰安婦」と産業強制労働の問題を解決するための具体的な措置が2018年以降、日本政府によってなんら行われていないことについて、懸念をもって注目する。さらに、国連人権委員会も2022年の最終見解において、日本政府が、被害者の人権を侵害し続けていることや過去の人権侵害によるすべての被害者に対する効果的な救済と十分な賠償の欠如の問題を解決するために、なんらの取り組みの進展も示さないばかりか、それに取り組むべき自らの義務を否定し続けてきた点に遺憾の意の表明をしたことに、留意する。(CCPR/C/JPN/CO/7、2022年11月30日)。本件の深刻さと被害が長期にわたっている性質を考慮し、委員会は日本政府に対し、生存する被害者、特に2015年合意を拒否した被害者との和解を達成するためにあらゆる努力を払うこと、また、年を追うごとにその数が減少し続けている戦時産業強制労働および軍事的性奴隷制による高齢の生存被害者の期待に応え、彼ら彼女らが求める解決を達成するために適切な措置を遅滞なく取るよう努めることを、要請する。

 

 委員会は、日本政府に直接宛てた要請の中で、その他の事柄を取り上げている。

 

(以上)

 

(仮訳:強制動員問題解決と過去清算のための共同行動事務局)

 

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