報告

院内集会「国連・ビジネスと人権に関する指導原則から問う!強制動員企業の人権感覚と企業倫理」

 6月11日、「強制動員問題解決と過去清算のための共同行動」主催の院内集会「国連・ビジネスと人権に関する指導原則から問う!強制動員企業の人権感覚と企業倫理」が衆議院第二議員会館で開催されました。会場には高良鉄美参議院議員、もとむら伸子参議院議員、逢坂誠二衆議院議員、福島みずほ参議院議員も参加してくださり、大椿ゆうこ参議院議員も文書メッセージを寄せられました。

 シンポジウムでは、山崎公士さん(神奈川大学名誉教授)、鳥井一平さん(移住連共同代表)、中田光信さん(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会)がパネリストとして登壇しました。

●日本の戦時産業強制労働とILO勧告(中田光信さん)

 

 第1次世界大戦の「戦後処理」の過程で国際連盟とともにILOが設立された。その後、フィラデルフィア宣言(1944年)に基づいて出されたILO憲章は、「世界の永続する平和は、社会正義を基礎としてのみ確立することができる」と労働基本権の保障は平和構築に欠かせない要素であるとの認識から国連憲章と共に発せられた(1946年)。

 ILOは基本的権利に関して5つの原則(①結社の自由及び団体交渉権②強制労働の撤廃③児童労働の廃止④雇傭及び職業の差別撤廃⑤安全かつ健康的な作業環境)と基本10条約を定めている。その一つが29号条約である。条約が示す強制労働の定義は「或者ガ処罰ノ脅威ノ下ニ強要セラレ且右ノ者ガ自ラ申出デタルニ非ザル一切ノ労働ヲ謂フ」(第二条)である。「自らの意に反する労働」は、戦前の植民地支配下においては過酷な搾取の手段として、そして戦後の植民地の独立、グローバル化の進展を経て現代社会においてはサプライチェーンにおける強制労働・児童労働の問題として引き続き重要な課題となっている。

 大阪府特別英語教員組合の申し立てを受けて、96年の専門家委員会報告で日本軍性奴隷問題が「条約に違反する」と指摘され、翌97年の報告では、条約の解釈として、79年のILOの「強制労働の廃止のための一般的調査」で示された「住民に対する切迫した危険に対処するためにどうしても必要な役務」以外は適用除外の対象にはならないと日本政府の「戦時適用除外」の解釈を否定した。

 97年に「強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク」の申し立てを受けて、99年の専門家委員会報告ははじめて中国人・朝鮮人の戦時産業強制労働を29号条約違反と認定した。2024年の報告では、「強制労働はたとえ過去のことであろうと正さなければならない課題であることを示し、現在の外国人労働者とりわけ技能実習生問題に直結する課題であることを明らかにした。

 日本製鉄はじめ加害企業は「戦時産業強制労働」によって利益を享受したにもかかわらず、それによって被害を受けた元強制労働被害者の訴えに応じようとしていない。日鉄は「人権方針」で「国際的に認められた人権及び国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」を支持・尊重します」と記したが、自ら犯した戦時中の強制労働の責任を認めないことは「天に唾する行為」だ。

 

 

 

●どうして人身売買、奴隷労働と言われるのか-外国人技能実習制度(鳥井一平さん)

 

 日本における外国人には二つのカテゴリーがある。「オールドカマー」と「ニューカマー」だ。私たちは「ニューカマー」の人たちの支援運動をしてきたが、相互の共通する課題については認識が薄い。

 直近の統計で、在留外国人数は341万人。2012年までは「外国人登録者数」と言っていた。それが2012年以降、住民票が出来て、「在留外国人数」となった。「ニューカマー」は1980年からぐっと伸びていく。中国・ベトナムが上位になり、韓国・朝鮮は3番手になった。昨年6月に身分に伴う在留資格が5割を切った。活動別の在留資格が過半数となった。外国人労働者は204万人。国籍は地域による差が大きい。日系の労働者はリーマンショック後ぐっと減っていく。それが技能実習生に置き換わっていった。

 オーバーステイはピークが30万人で1993年。今年1月に7万9千。入管庁は未だにたくさんのオーバーステイがいると言っているが、ミスリードだ。在留期限が切れたらとっとと帰る。どうしても帰れない人は3千から4千人程度。イベントがあると増える。規制もしない。雇傭調整弁として利用されてきた。

 1980年代はバブルでオーバーステイの容認政策をとった。いないことになっている。働いている人はみんなオーバーステイ。これではまずいと日系ビザを創設。人手が足りないので帰ってきてもらおうと当時に入管局長も言っていた。それを2010年から技能実習という在留資格を作って本格的に労働者の受け入れとして始めた。労働者として入国している人は29%しかいない。留学が78%。地球上探しても留学生が労働者のカテゴリーに入っているのは日本だけ。偽装しているのは誰なのか。

 この30年間、奴隷労働構造が続いている。劣悪な住環境、労働環境、強圧的な支配で産業、地域社会の荒廃を結果的に促進してしまう。これに対して私たちは国際労働基準の持ち込みで対抗してきた。人身売買、労働搾取しゃないか。米国務省に人身売買規定で「前借金」とある。まさに、人身売買ではないか。労使対等原則が担保されない。著しい支配関係が人を変え、民主主義社会を破壊してしまう。

 技能実習制度の見直し論議が始まったが、奴隷労働、人身売買への反省がない。日本社会は奴隷労働の前史を持っている。強制連行であり、外国人の管理・監視の戦後入管体制だ。これからのことを考える場合は、これへの反省というのがまず必要だ。奴隷労働を止めるというのは民主主義社会の重大な約束の一つだ。働く環境の問題なのに、外国人労働者には「足かせ」をつけてもいいというのは民主主義の否定だ。

 

 

 

●ビジネスと人権における国際人権法の発展(山崎公士さん)

 

 1984年にインド中部で、米多国籍企業の子会社の殺虫剤工場が爆発。近隣200人が即死、計1万4410人が死亡し、後遺症を含め35万人以上が被害を受けた。米親会社の会長はインドで逮捕された翌日に釈放され、インドを出国。その後米ダウ・ケミカル社がこの会社を買収したものの、被害者の要求を無視している。南米のバスクワ・ラマ金鉱山もカナダの鉱山会社が環境破壊や先住民族の聖地破壊などで批判を受けた。

 広がる多国籍企業の活動の結果、とくに労働、人権、環境などの領域において企業活動の負の影響が顕在化し、企業に社会的責任ある行動を求める動きが広がった。しかし、多くの企業は国境を越えた活動を展開するのみで、企業の社会的責任や法的責任は国内法で規制できず、国際組織によるガイドライン策定などを経て、11年に国連の「指導原則」が採択された。

 「指導原則」は次の3本の柱に支えられている。第一に、人権を保護する国家の義務である。第二に、人権を尊重する企業の責任である。第三に、救済制度へのアクセスの保障である。人権理事会の作業部会は加盟国に指導原則を実施するための国別行動計画を策定するよう奨励した。現在26カ国が策定済みである。日本も20年に国別行動計画を公表したが、既存の政策の整理に止まり、企業に対しては人権方針の策定や注意義務の実施を期待するのみである。また、企業による過去の人権侵害に関する言及は全くない。

 指導原則は法的文書ではないので、これを根拠に、国家の義務や企業の責任を法的に問うことはできない。そこで、2014年以降、国連で「ビジネスと人権条約」の起草作業が継続中だが、グローバルノース諸国や多国籍企業が国際法に縛られるのを嫌い、条約の成立を阻止しようとしている。その代わりに、グローバルノース諸国や多国籍企業は、企業の行為規範としての指導原則があれば十分との立場から、指導原則を尊重・遵守する立場を示している。そうであるなら、企業は、指導原則が示す人権尊重責任を真摯に受け止め、これに沿った企業活動を展開すべきだ。

 強制動員問題は2011年以前に起きたことだが、被害者への謝罪と救済はなされておらず、被害者への人権侵害状況はいまだ継続している。指導原則の観点から見ても、この問題は現時点の課題である。したがって、強制動員問題を惹起した企業は、現時点の課題として、過去に犯した人権への負の影響を是正する責任がある。

 

 

●全米鉄鋼労組・呉市民との連帯を追求すべき

 

 6月3日からジュネーブでILO総会が開かれています。残念ながら、戦時産業強制労働問題は議題とはならなかったため、現地参加している韓国の民主労総代表からの報告ではなく、韓国の民族問題研究所の金英丸(キム・ヨンファン)さんからピールをいただきました。金さんから「日鉄が指導原則を守ると言うなら、日鉄が過去の不正義に関して全く守っていないんだ、と全米鉄鋼労働組合に日韓の市民たちが署名など集めて、早く解決しない限りはビジネスもうまくいかないと連携して提案してはどうか」と呼びかけがありました。鳥井さんも「国際人権基準に基づき労働組合と市民運動が連携することが力になる」と強調しました。(山本)

 

*上記の文章は、日本製鉄元徴用工裁判を支援する会の会報「ムジゲ通信」より転載させていただきました。